意外と知らない「育成出身選手」や「育成選手」とは?
毎年10月に行われるドラフト会議。
今年もその時期が迫ってきましたが、ドラフト会議の後に行われるのが育成ドラフトです。
一般的にこの育成ドラフトによって、各球団が獲得または契約できる選手枠が増えた、というのが特徴の1つとして挙げられます。
この育成ドラフトや育成選手については試合中に実況が伝えることもあるので聞いたことある方も多いでしょう。
そこで今回は育成ドラフトと育成ドラフトで各球団に入団した育成選手について解説したいと思います。
目次
そもそも育成選手とは?
育成選手とは、基本的には育成ドラフトで入団した選手のことを指します。
この育成ドラフトは2005年に導入されました。
長い歴史を持つ日本のプロ野球においては比較的新しい制度と言えます。
また、育成ドラフト会議は毎年通常のドラフト会議のあとに行われるため、「2次ドラフト」と呼ばれることもあります。
育成ドラフトで指名される選手の傾向としては下記のような要素が考えられます。
- ドラフト指名時点では実力不足だがじっくりと育ててみたい
- ドラフト指名時点で怪我をしており、しっかり治してから使いたい
- アマチュア時代とは別のポジション(起用法)で使ってみたい
そもそもドラフト会議で指名する選手のうち、即戦力となるのは独立リーグ・社会人・大学生が多く、高校生は数年かけて育てていく方針が強い傾向にあります。
育成ドラフトの場合、年齢はもちろん重要ですが、ドラフト指名時点で何らかの課題があるものの、時間を掛ければ改善されて期待できる、という方針を重視して指名する傾向にあります。
また能力はありそうだが、指名時点では怪我による影響があるため、怪我の前の状態に戻るまでに時間をかけてコンディションを整える必要がある、と判断された選手も育成選手となります。
この場合、入団時は通常ドラフトだったが、プロ入り後に怪我をしたため、育成契約になったという場合が多いです。
例えば、中日ドラゴンズの濱田 達郎投手がこのケースの選手です。
濱田投手は愛工大名電高校時代、エンゼルスの大谷 翔平選手、阪神タイガースの藤浪 晋太郎投手と並んで「高校BIG3」とも称された世代トップクラスの投手でした。
そして、2012年ドラフトでドラゴンズから2位指名を受け入団。
しかし、入団後に肘の靭帯を損傷し、2016年には育成契約となり、育成契約の3年で結果が出せなかったこともあり、2019年の自由契約となってしまいました。
しかし、自由契約公示を経てドラゴンズと再び支配下登録選手として契約し、今シーズンは中継ぎとして1軍の試合に登板しています。
また、育成ドラフトで指名された選手(=育成選手)は、入団後の待遇や条件も通常のドラフトで指名を受けて入団した選手とは異なります。
育成選手と通常ドラフトで入団した選手との相違点
通常ドラフトで入団した選手、つまり支配下登録されている選手には1桁、もしくは2桁の背番号が渡されます。
例えば、昨年のドラフトで広島カープに1位で入団した森下 暢仁(もりした まさと)投手。
森下投手にはルーキーながらもエース番号18が与えられました。
しかし、育成選手は「018」や「107」、「202」など基本的に3桁の背番号となります。
その他にも育成選手と支配下登録されている選手との間には3つの相違点があります。
1. 金銭面
通常のドラフトで入団した新人選手には、年俸とは別に「契約金」というお金が別途各選手に支払われます。
契約金の金額はその選手の評価などによって異なりますが、ドラフト1位選手は1億円という場合が多いです。
一方で、育成選手には契約金はありません。
その代わりに「支度金」というものが与えられます。
この支度金は標準として300万円が支払われますが、通常ドラフトの契約金の金額と比べるととても少額であることが分かります。
また、育成選手の最低年俸は240万円と規定で決まっており、彼らは交通費も基本的にはこの年俸の中から自費で支払わなければならず、経済的に厳しい状況の中で日々の練習に打ち込まなければなりません。
ちなみに、1軍選手の最低年俸は1600万円となっているので、その差は歴然です。
2. 契約期間
育成選手の契約期間は3年となっています。
もし、この3年間で支配下選手とならない場合、その選手は自動的に自由契約選手となります。
3. 出場できる試合について
支配下登録されていない育成選手は、当然1軍の試合にでることはできませんが、2軍の公式戦には出場可能です。
ただし、育成選手の2軍公式戦出場は1チーム最大5名と決まっており、2軍の公式戦の枠も限られています。
育成選手から一軍で活躍するまでに成長した選手
このように、制約が多く厳しい育成選手の環境ですが、過去には一軍活躍するまでに成長した選手もいます。
その代表格が福岡ソフトバンクホークスの千賀 滉大投手でしょう。
また、千賀投手の他にも育成から這い上がった選手は何人かいます。
千賀 滉大投手(ホークス)
「お化けフォーク」で有名な千賀投手は育成出身からプロ野球界の顔ともなった現役の育成出身のプロ野球選手の中で最も知名度が高い選手の一人です。
ただ、蒲郡高校時代はスカウトの目にも留まらないほどの無名の選手でした。
そんな千賀投手ですが、地元のスポーツ店の店主の推薦によりホークスから2010年に育成指名を受けて入団。
そして2年後の2012年に支配下登録となり、2013年にはセットアッパーとして51試合に登板して、防御率2.40という成績を残しました。
2016年からは先発に転向し、球界を代表する選手に成長しました。
また、2019年9月7日に令和初となるノーヒットノーランを達成したことも記憶に新しく、支配下登録となって以降は安定していい成績を残していることが分かります。
増田 大輝選手(読売ジャイアンツ)
続いて紹介するのは、ジャイアンツの増田 大輝選手です。
なんと、増田選手は鳶職人を経てプロ野球選手になった、というプロ野球選手としては異色の経歴を持った選手。
そんな増田選手は2015年の育成ドラフト1位でジャイアンツに入団。
当時の川相昌弘3軍監督からは「成長株」と言われるほどの期待がかかった育成選手でした。
2017年に支配下登録された増田選手は、2019年にようやく1軍戦に出場。
持ち味の走力を活かして、主に代走や守備要員として試合の終盤に出場していました。
そして、昨年チームのリーグ優勝がかかったベイスターズとの一戦では、延長10回に決勝タイムリーヒットを放ち、リーグ優勝に貢献しました。
今シーズンからは背番号が0に変更となり、代走ながらこれまでリーグ2位の18個の盗塁(10月9日時点)を決めています。
さらに守備面ではセカンド、ショート、センターなど複数のポジションにつくことができるユーティリティプレイヤーであるという特徴もあります。
また、今シーズンは8月6日のタイガース戦で「ピッチャー」として出場したことも、プロ野球ファンの中では話題となりました。
今年、ようやく才能が開花した選手
では、ここからは今シーズンから活躍している育成出身選手をご紹介します。
和田 康士朗選手(千葉ロッテマリーンズ)
まず、一人目はマリーンズの和田 康士朗(わだ こうしろう)選手です。
2017年の育成ドラフトでマリーンズに入団した和田選手は50m5.8秒の俊足の持ち主。
また、遠投も107mと強肩の選手でもあります。
3年目の今年、ようやく支配下登録となった和田選手は、持ち味の俊足を活かして10月7日時点で盗塁数21とリーグ3位につけています。
さらに今シーズンは猛打賞も記録するなど、順調にアピールしていましたが、10月6日に新型コロナウイルスに感染した岩下 大輝(いわした だいき)投手の濃厚接触者となってしまい、登録を抹消されてしまいました。
松原 聖弥選手(ジャイアンツ)
2人目に紹介するのは、ジャイアンツの松原 聖弥(まつばら せいや)選手です。
2016年に入団した松原選手は2018年に支配下登録となりますが、その後1軍出場機会はありませんでした。
しかし、今年の7月25日にプロ入り後初めて1軍に昇格すると、プロ初打席で初安打を放ちました。
その後も徐々に出場機会を増やしていき、現在は主に2番・ライトとして先発出場を果たすまでに飛躍を遂げています。
走力、打撃力もあるため様々な攻撃を仕掛けることができる松原選手は、高い守備力も持ち合わせているため、今季ブレイクしているのでしょう。
支配下登録から育成選手契約に切り替わる場合
基本的に育成選手は育成ドラフトで入団し、2軍での試合経験を積んでアピールして支配下登録を勝ち取り、晴れて一軍の試合に出場できるようになります。
このように下から上に昇り詰めていくイメージが強い育成選手ですが、支配下登録されていた選手が育成選手契約に切り替わる場合もあります。
これは前述した本来の「育成」という意味とは趣旨が異なります。
よくあるケースは怪我によって長期リハビリが必要な場合。
球団としては解雇せずに在籍させたいが、試合には出場できないため支配下登録の枠を使うわけにはいかない。
選手自身も解雇されてしまうと治療環境や練習環境などが厳しくなってしまうため球団のお世話になりたい。
こうした双方の利害が一致すると、支配下登録から育成選手契約に切り替わることはよくあります。
その他には怪我など無くパフォーマンスに問題ない状態だったとしても期待以上の結果が残せず、改めて二軍でじっくりと育成したい場合です。
我らが楽天イーグルスでは福山 博之投手や池田 隆英投手、森 雄大投手らが該当します。
福山投手は2019年7月に右ひじのクリーニング手術を受けたため長期離脱を余儀なくされました。
年齢的なこともあって退団という最悪のシナリオが頭をよぎったファンもいたかもしれませんが、球団は2019年オフに育成選手契約を結びました。
その後じっくりと治療やリハビリに専念して実践に復帰。
今シーズン待望の一軍マウンドに復帰、それも本拠地楽天生命パーク宮城に帰ってきてくれた姿は多くのファンにとって記憶に新しいところでしょう。
一方で池田 隆英投手や森 雄大投手はいずれもドラフト会議では上位指名で入団していますが、思うような結果が残せず育成選手契約となっています。
育成選手契約の最大のデメリットは一軍の試合に出場できないことです。
もちろん待遇面などの厳しさもありますが、怪我をしておらずパフォーマンス自体に問題が無い状態で育成選手となるのは「実力が足りていない」と突き付けられているようなものです。
突然解雇されるよりはマシかもしれませんが、辛い事実であることは間違いないでしょう。
イーグルスでは地元仙台育英高校から入団した西巻賢二選手が育成選手契約の打診を断り千葉ロッテに入団したのも記憶に新しいところ。
恐らく最初から一軍での出場権利がない育成選手契約より、少しでも出場機会の可能性を求めて退団したものと推測されます。
このように転落的な要素で育成選手契約となる場合もありますが、福山投手のように球団の理解と協力で契約を維持し、再び復活の日に向けて努力を続ける選手もたくさんいます。
支配下登録から育成選手契約に切り替わると「負け組・転落」といったマイナスなイメージが先行してしまいがちですが、選手の事情によってそのかぎりではないことも覚えておきたいですね。
育成選手には雑草魂の持ち主が多い
今回は育成ドラフト・育成選手について解説してきました。
育成選手には入団時から育成契約を結んでいる選手と、怪我や実力不足などの関係でプロ入団後に支配下登録から育成契約になる選手、2パターンあることが分かりました。
いずれにしても育成選手は支配下登録選手に比べて金銭面や待遇面で大きな差があり、より厳しい環境のもとで野球を続けることになります。
しかし、そのような過酷な条件の中でも育成からプロ野球界の第一線で活躍するまで雑草魂で這い上がった選手がいることも事実です。
特に近年は3軍制の導入やファームの練習施設が充実するなど、各球団が生え抜き選手の育成環境充実と育成強化に注力しているように感じます。
球団で活躍したOBが一軍の首脳陣ではなく、あえて二軍監督や二軍コーチでじっくり育成の現場に向き合う配置も珍しくなくなりました。
トレードやFA移籍なども含め、ただでさえ短いプロ野球選手生命の中で活躍できる場を与えるために各球団の意識が変わりつつあるように感じます。
そういった意味で今後ますます育成ドラフト入団・育成選手出身の選手が一軍で活躍するシーンも増えてくる期待が高まります。
そして今年のドラフト会議も間もなく。どんな素質を秘めた選手が育成として入団してくるのか。
通常のドラフト会議はもちろんですが、育成選手としてどんな選手を指名するかも球団の中長期的な方針が読み取れる大事な要素です。
ドラフト会議だけではなく育成ドラフトの指名選手にも注目していきたいですね。
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