【変化が少ないから打てない?】涌井投手のチェンジアップのような「シンカー」

2021年、イーグルスの開幕投手を務めた涌井投手。見事、史上初となる3球団(西武・ロッテ・楽天)での開幕投手勝利を達成しました。

2020年には、こちらも史上初となる3球団での最多勝に輝やいています。イーグルスのエースだけでなく、プロ野球界でもエース級の活躍を続けています。

ですがロッテに在籍していた2017~2019年の3年間は、それぞれ5勝・7勝・3勝と二桁勝利に届きませんでした。しかし2020年から移籍したイーグルスでは11勝を上げて最多勝を獲得。見事復活を果たします。

最多勝を獲得する大きな武器になったのが、イーグルスの小山投手コーチから伝授された「シンカー」をアレンジしたもの。

この記事では野球歴12年・投手歴5年の筆者が、涌井投手の大きな武器であるシンカーを分析し、その効果をわかりやすく紹介します。

涌井投手のシンカーはチェンジアップに近い球種

涌井投手のシンカーは「チェンジアップ」に近い球種といえます。通常のシンカーは、テレビで見た時に右下(右打者の内角低め・左打者の外角低め)に向かって大きく変化し、空振りを奪えるボールです。

一方で涌井選手のシンカーはあまり変化しません。ストレートに近い軌道から少しだけシンカーのように変化します。その軌道はチェンジアップに近いでしょう。

「大きく変化した方がいいんじゃないの?」と思う方も多いかと思います。ですが、変化が少ないからこそ打てない理由があります。続いて、変化が少ないことが武器になるチェンジアップについてご紹介します。

そもそもチェンジアップってどんな球種?

チェンジアップは、投手によって投げ方・変化・狙いがバラバラな球種です。ですが、大きく以下の2種類に分かれます。

  • 落ちる系
  • 来ない系

落ちる系

最近の主流が、落ちる系のチェンジアップ。スプリットのように挟んで縦に落としたり、シュート回転をかけてシンカーのように落としたりするボールです。

落ちる系のチェンジアップで代表的なのが、メジャーリーグのミネソタ・ツインズでプレーする前田健太投手のチェンジアップ

2018年のメジャーリーグでチェンジアップの被打率.164を記録しました。この被打率はメジャーリーグの中で堂々の1位です。MLB公式サイトでも「最も打たれなかったチェンジアップ」として紹介されました。

前田健太投手のチェンジアップは、下の動画のように挟んで握ります。チェンジアップというよりスプリットに近い握りです。リリースの時に人差し指で押し込み、シュート回転をかることで、右下に急激に落ちます。

握りがスプリットに近いので「スプリットチェンジ」とも呼ばれますが、その変化の仕方はシンカーともスプリットとも言えるでしょう。多くの場合、変化球をなんと呼ぶかは本人がなんと呼ぶかで決まります。

なので落ちる系のチェンジアップはかなり幅が広く、スプリットやシンカーに近い変化球を、チェンジアップと呼ぶことも多いです。

来ない系

もう一つのチェンジアップが「来ない系」です。こちらが本来のチェンジアップと言えるでしょう。涌井投手のシンカーも、来ない系のチェンジアップに近い球種です。

来ない系のチェンジアップの特徴は、腕の振りがストレートと一緒、回転も軌道も一緒で、スピードだけが遅いことです。

変化が少ないのになぜ打てない?

打者は腕の振りや軌道・回転がストレートと違うと、球種を見分けやすくなります。変化のタイミングが早ければ早いほど、そして曲がり幅が大きいほど球種をわかりやすいのです。

逆に言えば曲がらなければ曲がらないほど、ストレートとの見分けがつかなくなります。来ない系のチェンジアップは回転も軌道もストレートに近いため、バッターはぎりぎりまでチェンジアップだとわかりません。

変化が少なくとも、ストレートのタイミングで打ちに行くバッターはタイミングが合わず、空振り・ファール・凡打になってしまいます。

来ない系のチェンジアップで球界最高の評価を得た金子弌大投手

来ない系のチェンジアップで代表的なのが、ファイターズでプレーする金子弌大投手のチェンジアップです。

金子投手がバファローズでプレーしていた2014年、フジテレビのスポーツ番組「スポルト」にて行われた現役選手へのアンケートで、変化球部門1位に選ばれました。

当時イーグルスでプレーしていた松井稼頭央さんは、金子弌大投手のチェンジアップを「2回振れるよあれ」と評しました。銀次選手は「途中まで真っすぐに感じますね」「打ちいくとまだボールがきていない」「あれ?みたいな感じです」と評しています。

このように変化の少ない、来ない系のチェンジアップが、一流投手たちの変化球の中で1番の評価を獲得したこともあるのです。

ストレートと同じように投げる

来ない系のチェンジアップは中指と薬指でストレートを投げます。球を遅くしようと、腕を遅く振ったり、抜くようにリリースしたりしてはいけません。ストレートと同じ腕の振り・リリースだからこそ効果を発揮するボールです。

金子弌大投手の握り

金子投手のチェンジアップのリリース

来ない系のチェンジアップを使い手が少ない理由

来ない系のチェンジアップの代表として金子投手のチェンジアップを紹介しました。ですがこれほど強力な球種なのに、使い手はあまり多くありません。使い手が少ないからこそ、さらに強力な球種になるのですが、なぜ使い手が少ないのでしょうか。

  • スピードを落とすのが難しい
  • コントロールが難しい
  • 高度な配球が必要
  • ブルペンでボツにされる

スピードを落とすのが難しい

先ほど、中指と薬指でストレートと同じように投げると解説しました。ですが、いくら中指と薬指で投げると言っても、ストレートと同じように投げて、大きくスピードを落とすのは簡単ではありません。

ストレートと同じ投げ方で20km近くもスピードを落とせるのは、金子投手の指先の感覚や高度な技術があるからでしょう。スピードを落とせなければ打者のタイミングを外せません。ストレートよりちょっと遅いだけの打ちやすい球になってしまいます。

コントロールが難しい

来ない系のチェンジアップはキレや威力のあるボールではないので、より厳しいコースにコントロールしなければなりません。

ですが、力が入りにくい上に使い慣れない薬指を使うので、コントロールがとても難しいのです。リリースの感覚を掴むには、ある程度の練習量が必要です。

金子投手も涌井投手も、球界屈指の制球力を持ちます。だからこそ使いこなせる球種なのかもしれません。

高度な配球が必要

来ない系のチェンジアップは変化が少なく遅いボールなので、「来る」とわかっていたら一番打ちやすい球種です。なので、バッターがストレートを意識しているタイミングを狙って投げなければなりません。

一方で、ストレートのタイミングで強振してくるバッターには、ど真ん中に投げてもリスクは低いです。こういった打者は甘いコースに来た時、より力を入れて迷わず振り抜くため、タイミングを外しやすく、ストライクをとりやすいでしょう。

投げるピッチャーも、サインを出すキャッチャーも、高度な配球力と勇気がいる球種です。

ブルペンでボツにされる

来ない系のチェンジアップは、バッターと対戦した時にはじめて価値がわかる球種です。ブルペンで投げても、変化が少なく遅いボールなので、キャッチャーからは棒球に見えます。

なので使い方を知らないキャッチャーには「使えない球種」と判断されてしまうことがあります。プロのキャッチャーなら上手く使えますが、学生などのアマチュアキャッチャーでは、上手い使い方をイメージできず、ボツにしてしまう可能性があります。

高校野球の甲子園を見ていても、来ない系のチェンジアップを使う投手はあまり見かけません。

涌井投手のシンカーはここがすごい!

涌井投手のシンカーは、来ない系のチェンジアップのように、腕の振りも軌道もストレートとほぼ一緒です。一方で少しシュート回転をかけているので、打者の手元でシンカーのように絶妙に変化します。

なのでバッターからすると、ストレートと見分けがつかない上に、変化するのでさらに空振りや凡打になりやすいのです。来ない系の要素が強く、落ちる系の要素も持ち合わせた変化球と言えるでしょう。

下の動画をご覧ください。首位打者を2度獲得するなど、球界屈指のバットコントロールを誇る角中選手も、大きくタイミングを外されています。この投球では、かなり前のポイントでバットの先でこすり、ファールになりました。

投げ方は、金子投手に近いです。中指と薬指の間を少し開けて握り、ストレートと同じように投げます。涌井選手の場合はフォームがスリークォーターなので、腕の角度が斜めです。なので、自然にシュート回転がかかります。

まとめ

涌井投手のシンカーは、来ない系のチェンジアップに近くて、落ちる系の要素もあります。ストレートと見分けがつかない上に、手元で動くこの変化球を捉えるのは、とても難しいでしょう。

そんな涌井投手は2021年も絶好調。開幕後の3登板で2勝、投球回22イニングで防御率1.23という素晴らしい成績を残しています。

涌井投手を筆頭に、田中投手、岸投手、則本投手、早川投手らと、球界屈指の先発ローテーションを手にした今年のイーグルスが楽しみですね!

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