石井一久GMは非情か?2019オフシーズンの人事動向に見る将来のイーグルス像

日本プロ野球の2019シーズンはすでに全日程を終了しており、現在は国際大会プレミア12が開催されています。
ちょうど今日から日本でのスーパーラウンドが始まり、日本代表が世界一をかけて戦います。

それはさておき、オフシーズンと言えばファンにとって気になるのは選手や監督コーチの移籍や退団といった人事動向でしょう。
2019シーズンオフ(以下、今オフ)で楽天イーグルスはすでに戦力外通告をした選手が発表されており、更にFA宣言での獲得並びに退団の可能性もあります。
そして、何と言っても今シーズンで楽天イーグルスの監督を退任し、球団からの退団も決めた平石洋介氏のソフトバンクホークス入りが決定しました。

こうした人事動向に関して、楽天イーグルスで大きな影響力を持っているのが石井一久GMと言えます。
就任当時から何かと話題にはなっていましたが、特に今オフの人事に関しては賛否両論が挙っています。
その内容をまとめていくとともに、今後の楽天イーグルス像を占っていきましょう。

今オフでの楽天イーグルス主な人事

今オフの人事は選手、指導者含めて変革の多い内容と言えるでしょう。
現役選手の戦力外通告をはじめ、引退、退団、そして監督コーチ陣の入れ替えなどについて見ていきましょう。

戦力外通告選手

今オフで戦力外通告となった選手は下記の通りです。
【10月1日発表】
・森 雄大(投手)16
・池田 隆英(投手)30
・福山 博之(投手)64
・野元 浩輝(投手)069
・井手 亮太郎(投手)132
・鶴田 圭祐(投手)161
・山田 大樹(内野手)127
・島井 寛仁(外野手)0
・橋本 到(外野手)49

【10月18日発表】
・戸村 健次(投手)22
・西宮 悠介(投手)38
・今野 龍太(投手)98
・西巻 賢二(内野手)67
・耀飛(外野手)50
・卓丸(外野手)57

このうち、森投手、西巻選手、耀飛選手は育成契約を打診しており、確定はまだ発表されていません。
また、卓丸選手はトライアウトを受けることを公表しています。

こうして戦力外通告となった選手を見てみると、育成契約を打診しているとは言え、まだ高卒2年目の西巻選手、巨人から移籍してきた橋本到選手、中継ぎで活躍した戸村、西宮投手など、まだまだ戦力として活躍できそうな選手も名を連ねました。
中でも福山投手はここ2シーズン苦しんだものの、2017シーズン3位の躍進を支えたのはご存じの通り。

全体的にシビアな決断がなされた印象を受けました。

退団・引退となる選手

今オフで退団・引退となる選手は以下の通りです。

【10月15日発表:引退】
今江 年晶選手(10月22日に育成コーチ就任が決定)

【公式には未発表:退団】
嶋 基宏捕手(他球団への移籍が濃厚)

現役引退を決めたのは今江年晶選手。
2019シーズンは目の病に悩まされ苦しいシーズンとなったものの、一時は現役続行のために退団との報道もありました。
結果的には引退を発表し、更に楽天イーグルスに残り育成コーチへの就任が決定しました。これはファンにとっても嬉しいニュースであり、今後の若手育成を担ってくれる大きな存在になりそうです。

一方、同じく2019シーズン苦しんだ嶋基宏捕手は退団が決定的となっています。
今シーズンは開幕こそスタメンだったものの、シーズン途中に腰痛が悪化。ファームでの調整期間が長引き、その間に堀内や太田といった若手捕手が台頭したこともあって出番が激減。シーズン終盤は2軍で元気な姿を見せていたが、結局1軍には呼ばれず。チームはクライマックスシリーズ進出を果たしてポストシーズンを戦っていたが、そこでも声は掛からずに終戦。
シーズンオフとともに球団から提示されたのは大幅な年俸の減額と、主戦力としては厳しいという判断でした。

これを受け、現役続行はもちろん、主力として出場機会のあるチームへの移籍を視野に退団が決定的となりました。
まだ正式な発表はありませんが、リーグの違うセ・リーグでヤクルトスワローズへの移籍が濃厚とみられています。

監督・コーチの人事

今オフは監督交代をはじめ、コーチ陣もかなりの入れ替わりが決定しました。
10月11日に三木肇二軍監督が一軍監督に就任することが正式に発表されると、15日には平石洋介前監督の退団が正式に発表されました。

まず、決定している2020シーズンの監督コーチ陣が以下の通りです。
【2020シーズン 一軍コーチングスタッフ】

監督三木 肇88
一軍作戦コーチ野村 克則73
一軍打撃コーチ金森 栄治81
一軍打撃コーチ鉄平96
一軍打撃コーチ(選手兼任)渡辺 直人26
一軍投手チーフコーチ伊藤 智仁84
一軍投手コーチ小山 伸一郎75
一軍バッテリー兼守備戦略コーチ光山 英和90
一軍内野守備走塁コーチ塩川 達也86
一軍外野守備走塁コーチ笘篠 誠治79

【2020シーズン 二軍コーチングスタッフ】

二軍監督奈良原 浩95
二軍打撃コーチ垣内 哲也94
二軍打撃コーチ後藤 武敏93
二軍投手コーチ石井 貴80
二軍投手コーチ館山 昌平92
二軍バッテリーコーチ星 孝典82
二軍内野守備バントコーチ酒井 忠晴87
二軍外野守備走塁コーチ牧田 明久85
育成総合コーチ真喜志 康永74
育成コーチ今江 敏晃98
育成コーチ永井 怜83

こうしてみると、一軍の首脳陣の多くは現役時代も楽天イーグルスで活躍していた人物や、二軍でコーチを経験してきた人物を中心に起用していることが分かります。渡辺直人選手は現役との兼任ですし、鉄平、塩川、小山といった一昔前のイーグルスを知るファンならご存じの通りの方々も一軍首脳陣入りとなりました。

続いて、下記のコーチの退団(契約終了)も決定しています。
【10月9日発表】
・佐藤 義則(投手テクニカルコーチ)
・高須 洋介(育成総合コーチ)

【10月11日発表】
小谷野 栄一(一軍打撃コーチ)→オリックスへ移籍

【10月14日発表】
森山 良二(一軍投手コーチ)→ソフトバンクへ移籍

【10月29日発表】
栗原 健太(二軍打撃コーチ)→中日ドラゴンズへ移籍

退団するコーチの中でも小谷野氏、森山氏、栗原氏はすぐに移籍先が決まり、中でも森山氏は平石氏と同じソフトバンク入りが決定しています。
そういった意味では今後も必要とされている人たちが退団となったことは残念な反面、選手以上にコーチ陣の退団や移籍は頻繁にあることなので致し方ない部分もあるでしょう。

注目の話題1:平石洋介氏

こうして選手や監督コーチの動向を見てみると、やはり変革が大きい入れ替わりが激しいという印象になるでしょう。

中でも話題となっているのが監督を退き、球団からも退団、そして他球団のコーチへと異例の就任を決めた平石洋介氏でしょう。
平石洋介氏と言えば、いうまでもなく楽天イーグルスの生え抜き選手であり、コーチ、二軍監督、そして生え抜き初の一軍監督へと就任した「ミスターイーグルス」的な存在です。
その平石洋介氏が退団し、更には今シーズンもクライマックスシリーズで激闘をしたライバルとも言えるソフトバンクホークスのコーチに就任したことは決して穏やかではいられません。

こうした事実を踏まえて、ファンの間では「石井一久GMが平石洋介氏を見捨てた」「平石洋介氏は楽天を恨んでおり、やり返すためにホークスへ移籍した」という意見が出ています。

一方で、「一度でも他球団を経験するのは大きなこと」「強いチームから声がかかるのは見込まれている証拠」など平石洋介氏に対する肯定的な意見や、その先に、また楽天イーグルスに戻ってきて指導者になってくれるのではないかという希望も込められた意見もあります。

石井一久GMの平石洋介氏に対する評価

いずれにしても真相は分かりませんが、少なくとも私は「石井GMが平石氏を見捨てた」というのは違うと考えています。
なぜなら、平石氏には監督退任の裏で「二軍統括」という役職への打診があったと報道されています。
結果的に実現はしなかったのでどういった役割かは不明ですが、少なくとも一軍、二軍の両監督を経験している平石氏が双方の間に入って客観的な意見、分析をしてくれる重要な役職だと推測されます。

しかし、結果として平石氏はこの打診を断り、退団となりました。その際、「楽天イーグルスを愛している。しかし退団することにした」という趣旨のコメントがありました。このコメントの真意もまた分かりかねますが、一部では「石井GMへの恨み節」という声もありました。

繰り返しますが、この件に関して真意は分かりません。

ただ、私は石井GMが平石氏を見捨てた、切り捨てたということは無いと考えています。なぜなら、本当にそうなら二軍統括という重要な役割を打診したりしないはずです。
2019シーズン、平石氏が監督をやってきて石井GMとどういったやり取りがあったかは分かりませんが、何かしらの「やりづらさ」みたいなものはあったのかもしれません。

確かに監督就任からわずか1年半、しかも当初は梨田監督のシーズン途中解任からの就任ですから、相当な苦労があったはずです。
こうした功績やこれからのことを考えれば平石氏の退団が痛手であることは誰しもが理解しています。

石井GMは指導者としての平石氏を評価して重要な役職を打診したが、それが監督では無かったという評価。
平石氏は、あるいは監督続行もしくは現場にいることを強く望んだ、というところでの退団決定ではないかと考えています。

少なくとも、「見捨てる」「突き放す」「恨みがある」という安易な感情では語れない話であり、そういった評価をするのはあまりにも幼稚ではないかと考えています。

注目の話題2:嶋基宏捕手

そしてもう1つ重要な話題が嶋基宏捕手の退団と他球団への移籍です。
前述の通り今シーズンは苦しい1年となり、更に首脳陣からも主力としては難しいという評価を受けました。
これに対して嶋捕手は現役続行、出場機会にこだわり、退団となりました。

ここでも「球団の功労者である嶋を見捨てるのか」といった意見も出てきます。
一方、「他球団、特にセ・リーグの野球を知ることは指導者としても大きな経験になる」といった指導者の道も踏まえた意見もあります。

重要なことは退団となった経緯ですが、これも石井GM含めた首脳陣は嶋捕手に対して最大の敬意を払って打診したと考えられます。
それが「移籍先を探すことに協力する」「指導者としてのポストを与える」「主戦力として扱えない以上、安易に所属させるわけにはいかない」といった要素です。

特に3番目は重要です。
嶋捕手といえば楽天イーグルスの中心的選手であり、多くの経験を持つ貴重な捕手です。
言わばレジェンド的な存在であり、そういった選手だからこそ、これから若手中心となる正捕手争いに加わるのは難しい。もっと言えば加えることは出来ない。だからこそ現役にこだわるなら厳しい、という評価をはっきりと伝えたのは誠意があると言えます。

こうした経緯を踏まえると、石井GMをはじめとした首脳陣の評価は現実的なものであり、現役にこだわるならば他球団への移籍は致し方ないということになるのではないでしょうか。

石井一久GMが目指す楽天イーグルスとは

石井GMはオットリとしたキャラクターが印象的ですが、その印象とは裏腹に相当な戦略家です。
また、自身がメジャーリーグを経験していることもあり、メジャーリーグ流のチーム作り、人事決断をする節は見受けられます。
メジャー風とは簡単に言えば実力主義で、チームの中心選手が突然移籍することも珍しくありません。

結果を出した選手には多くの報酬を与え、活躍が見込まれる選手には手厚い待遇を提示し、一方で活躍できない選手は容赦なく契約をしない。
もちろんメジャーリーグの球団が全てそうとは言いませんが、強いチーム、結果を出しているチームほどその傾向は強いと言えます。

また、チームが勝てば人気も上がり、よりチームとしての収益も上がり、より選手への待遇や施設の充実といったプラスのサイクルにもなっていきます。

楽天イーグルスの場合は親会社である楽天が大企業であり、生活インフラにもなっているサービスを次々と確立していることから金銭的には余裕のある球団と言えます。

とはいえ、これまではソフトバンクや巨人といった同じように金銭的余裕のある球団に比べると、そうした印象は薄かったと言えます。
そこから石井GMが就任後、浅村選手のFA獲得やブラッシュ選手の獲得など、金銭的にも戦略的にも「上手い」といえる手腕を発揮してきました。
(ただ金銭にものを言わせて獲得するというわけではないが、しかし必要な選手にはしっかりと金銭面も含めた待遇を用意する、という意味)

ただし、現時点で「育成」という部分ではまだ未完成と言えるでしょう。
投手陣で言えば藤平、安樂、近藤といった若手投手がまだ台頭していません。
野手陣で言えばオコエ、岩見、内田といった若手がまだまだです。

この辺りはどこまで期待に応えられるか、正直なところ石井GMの手腕と言うよりは本人次第と言えます。
逆に言えば則本昂大や松井裕樹投手らが石井GMの手腕で活躍するようになったわけではありません。

そういった意味で石井GMに「育成」を求めるのは、やや論点がズレるのではないかと考えています。
もちろんドラフトなどは育成も踏まえた考えを持っているでしょうが、それを現場で実行するのはコーチの指導や選手本人の努力であり、何でもかんでも石井GMの責任とするのは違うと考えています。

それよりも、これは石井GM本人が言っていたことですが、「長期的に強いチーム作り」を本気で考えていることを忘れてはならないと考えています。
ベテランでも主力でも功労者でも、長期的に強いチーム作りに必要な人物を起用し、残念だがそうではない人物は起用できない。

その最たる例が今回の平石氏であり、嶋捕手だったといえるでしょう。

もちろん、そういったやり方にファンはもちろん、実際に現場で取り組んでいる人たちからも良く思わない人もいるでしょう。
私たちの仕事でもそうですが、気が合う合わない、方針に賛同できるできない、は絶対にあります。

ただ1つ言えることは、石井GMは本気で楽天イーグルスを強くしようと考えていること、それも偶然では無く、それこそ現在のソフトバンクホークスのような「常勝軍団」へと変革させたいと考えていることは理解しなければいけません。

そもそも楽天イーグルスは弱小軍団、寄せ集めから始まったチームです。
リーグ優勝、日本一を経験しているとは言え、その当時は田中将大投手という絶対的エースがいました。ジョーンズやマギー、松井稼頭央選手らもいました。
もちろん生え抜きの嶋基宏、銀次、岡島といった選手もいましたが、その後は再び苦しい時代があったことを思えば、まだまだの球団と言えます。

決してお金だけでなりふり構わず獲得するわけでも無く、育成に力を入れていないわけでも無く、しかしシビアな決断をしてこそ、強いチーム作りができるのかもしれません。

中には「2020シーズンで結果が出なければ石井GMは解任だ」という声もあります。
確かに2018シーズンのような散々たる結果ならば考える余地があるかもしれませんが、本気で長期的に強いチーム作りを目指すなら、短期間だけの結果を見ても何の意味もありません。

私自身は、やはりチームが強いのが一番嬉しいと考えています。
もちろん平石氏や嶋捕手の退団に何とも思っていない訳ではありません。私にも感情はあります。
とはいえ、その痛みを乗り越えた先にある栄光や期待感の方が勝っています。

果たしてどこまで我慢できるか

それは球団にも問われており、選手にも問われており、そして何より、私たちファンにも問われているのではないでしょうか。

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