日本プロ野球界に浸透してきた「QS(クオリティー・スタート)」とは?
最近、メジャーリーグの影響もあってか、一昔前までは聞いたこともなかったような野球用語を耳にする機会も多くなってきたように感じる方も多いかと思います。
そんな言葉の一つがQSではないでしょうか。
「文字だけ見ても何を意味しているのかさっぱりわからない」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
QSとは「クオリティー・スタート(Quality Start)」の略語で、先発投手の評価に用いられる指標のことです。
具体的には先発投手が6イニング以上を自責点3点以内に抑えた場合に記録される指標です。
メジャーリーグで主に使われているこの指標が最近は日本プロ野球界でも頻繁に用いられるようになってきました。
そこで、今回はQSについてまとめてみました。
目次
QS(クオリティー・スタート)とは
冒頭で記載した通り、QS(クオリティー・スタート)は先発投手の評価指標の一つ。
先発投手が6イニング以上を自責点3点以内に抑えた場合につく指標です。
言い換えれば下記のような状況を具体的に数字として表す指標がQSとなります。
- 先発投手がどの程度試合を作ったのか
- 先発投手にどれほどの安定感があるのか
従来は防御率や投球回数(イニング数)を中心にみていましたが、QSの概念が浸透したことで「6回自責点3点以内」という具体的な基準で評価できるようになりました。
ただし、このQSには注意点が1つあります。
それは、もし先発投手が6回を投げて自責点3以下であっても、7回に4点目の自責点がついてしまった場合には、QSは記録されない、という点です。
ですので、あくまでも1試合での自責点が3以下であることが重要ということになります。
そして、このQSがついた試合数の割合を表すのがQS率です。
QS率はどうやって算出するの?QS率の計算方法
QS率の算出公式は非常にシンプルで下記の通りです。
QS率(%)=(QSを記録した試合数 ÷ 先発登板試合数)x 100
例えば、先発投手Aが1シーズンで19試合に登板し、13試合でQSを記録した場合のQS率は、
13÷19×100=68.421….
ということになりますので、約68%がA投手のQS率ということになります。
QSで見る昨シーズンと今シーズンの先発投手の安定感
では、ここからはQSから見る日本プロ野球投手陣の成績を見てみましょう。
2019年のQS率は、パ・リーグ平均が40.6%、セ・リーグ平均が44.1%となっています。
若干セ・リーグの方が優れており、概ね10試合のうち4試合は先発投手が試合を作ったゲームになっていると言えます。
逆にパ・リーグの方がやや割合が低いのは、打撃の強いチームや強打者が多い傾向にあるからかもしれませんね。
また、チーム別では以下のような成績になっています。
2019年シーズン チーム別セ・リーグ投手成績
チーム名 | QS率 | 防御率 |
読売ジャイアンツ | 48.3% | 3.77 |
阪神タイガース | 43.4% | 3.46 |
横浜DeNAベイスターズ | 37.1% | 3.93 |
中日ドラゴンズ | 46.2% | 3.72 |
広島カープ | 52.4% | 3.68 |
ヤクルトスワローズ | 37.1% | 4.78 |
2019年シーズン チーム別パ・リーグ投手成績
チーム名 | QS率 | 防御率 |
ソフトバンクホークス | 42.7% | 3.63 |
千葉ロッテマリーンズ | 43.4% | 3.90 |
楽天イーグルス | 42.7% | 3.74 |
日本ハムファイターズ | 27.3% | 3.76 |
西武ライオンズ | 42.7% | 4.35 |
オリックス・バファローズ | 44.8% | 4.05 |
QS率が高いチームはチーム防御率も低いことから、表を見ると一見、QS率と防御率には相関関係があるように見えます。
しかし、QS率と防御率の相関関係は必ずしも成立するとは限りません。
例えば、バファローズはQS率と防御率の相関関係の反例です。
昨年のバファローズのQS率は44.8%とリーグ1位にも関わらず、チーム防御率は4.05位とリーグ5位。
ここから、昨シーズンのバファローズは、シーズン通して先発投手陣は安定したピッチングを披露していましたが、中継ぎ、リリーフといった試合終盤で投手陣が打たれたことが分かります。
また、今シーズンのチーム別成績は以下の通りです。
2020年シーズン チーム別セ・リーグ投手成績
チーム名 | QS率 | 防御率 |
ジャイアンツ | 46.2% | 3.27 |
タイガース | 57.0% | 3.53 |
ベイスターズ | 45.7% | 3.74 |
ドラゴンズ | 42.0% | 3.84 |
カープ | 43.6% | 4.57 |
スワローズ | 32.9% | 4.57 |
※9月21日時点の成績
2020年シーズン チーム別パ・リーグ投手成績
チーム名 | QS率 | 防御率 |
ホークス | 45.0% | 3.11 |
マリーンズ | 50.0% | 4.07 |
イーグルス | 41.3% | 4.32 |
ファイターズ | 45.0% | 3.88 |
ライオンズ | 35.9% | 4.41 |
バファローズ | 40.0% | 4.16 |
※9月21日時点の成績
セ・リーグでは、首位のジャイアンツがQS率はリーグ2位ですが、防御率が1位と投手陣が安定していることが分かります。
実際、今シーズンのジャイアンツは、先発投手が6回を投げきることができずに降板してもその後には、大竹 寛投手や中川 皓太投手、今年イーグルスからトレードで移籍した高梨 雄平投手など盤石で豊富な投手陣が控えているため、この成績となっているのでしょう。
一方、オフにトレードなどによる中心選手の退団はなく、今年は昨年のドラフト1位ルーキー森下 暢仁(もりした まさと)投手が加入し、今シーズンも強いかと思われましたが、意外苦しんでいるカープ。
先発陣の顔ぶれは昨シーズンとほとんど変わらないにも関わらず、昨シーズンは5割を超えていたQS率も今年は43.6%と先発投手陣が本来の実力を発揮できていない印象を受けます。
先発投手陣の柱である大瀬良 大地投手は今月受けた右肘の手術のため、今シーズン中の復帰は絶望的です。
さらに、クリス・ジョンソン投手も今シーズン未だ勝ち星がない状況です。
また、中継ぎやリリーフ陣も今年は機能できていません。
そのため、QS率も防御率もあまり芳しくありません。
続いてパ・リーグですが、我らがイーグルスのQS率はリーグ内でも低い方です。
本来、先発投手陣は則本 昂大投手、岸 孝之投手、松井 裕樹投手の3本柱が期待されており、更に涌井投手も加わったことで先発投手陣は盤石のように思われました。
しかし、いざ開幕してみると3本柱が本来の実力を十分に発揮できていないという課題にぶつかっています。
以前の記事で「誤算」としてもピックアップしましたが、則本投手は5勝3敗、防御率3.52という成績であまり貯金を作れていません。
松井投手は3勝3敗と貯金は0。
岸投手に至っては負けこそ無いものの、今シーズンの勝利数は2勝にとどまり、防御率は9月20日時点で7.02と岸投手の実力と実績を考えると信じられない数字です。
とはいえ、3本柱が苦しむ中でも3位に付け、CS争いができているのは総合的なチーム力があると言い換えることもできます。
またパ・リーグトップのQS率をマークしているマリーンズが今シーズン優勝争いしており、先発投手陣の活躍がチームに良い流れを呼び込んでいると言えるのではないでしょうか。
イーグルスからFA移籍した美馬学投手も頑張っているようですし、石川歩投手、二木投手、小島投手、岩下投手、種市投手といった先発陣の活躍と安定感が目立っています。
まとめ
QSの指標が日本で用いられるまでは、先発投手の能力は勝敗数と防御率の2つで主に評価されていたように感じますが、QSが評価指標の1つとなり、より多角的に投手一人ひとりの能力をはかれるようになりました。
それはQSが勝敗にかかわらず投手の能力を数字として表すことが可能だからです。
たとえ先発投手が良いピッチングをしても打線の援護なく0-1で敗戦、ということも珍しくありません。
防御率は良い数字を維持できますが、たとえ1失点完投してもチームが負ければ敗戦投手。
そういった意味でQSがあることで先発投手だけの責任ではないことや投手自身の評価を下げる懸念が減ると言えます。
また、QSやQS率から投手の出来だけではなくチーム全体の力がわかることもあります。
今後は投手を評価する際にはQSも有効な指標として仲間入りしそうです。
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